日本酒は、日本が誇る伝統的なお酒です。特有の香りや甘味、味わいは日本のみならず海外でも多くの人に愛されています。
ファンの多い日本酒ですが、日本酒の造り方を詳しく知っている方は少ないと思います。実は、日本酒は独自の製法で造られています。今回は、日本酒の造り方をメインに、代表的なお酒の製法などの周辺知識を紹介します。
日本酒は「醸造酒」!他のお酒との違いは?
お酒は製法の違いによって、「醸造酒(じょうぞうしゅ)」「蒸留酒(じょうりゅうしゅ)」「混成酒(こんせいしゅ)」の3つに大別されます。
簡単に言えば、原料を発酵させたものをそのまま飲むのが「醸造酒」であり、醸造酒を加熱し蒸留して造るのが「蒸留酒」、そして、醸造酒や蒸留酒をベースにして造られるのが「混成酒」です。
醸造酒は、原料(米・麦・ブドウなど)に含まれるデンプン質や糖を、酵母(こうぼ)菌によってアルコール発酵させて製造します。醸造酒は、基本的に水やジュースなどで薄めずにそのまま飲めます。
醸造酒で代表的なお酒は、日本酒・ビール・ワインです。お米を発酵させたものが日本酒、主にブドウ果汁を発酵させたものがワイン、麦芽を発酵させたものがビールです。
蒸留酒とは?
蒸留酒は、醸造酒を蒸留したお酒です。蒸留とは、液体を加熱・沸騰させて蒸発した気体を集めて冷やし、再び液体に戻すことを言います。
醸造酒を蒸留すると、アルコール度数が高まります。なぜなら、水とアルコールは沸点が異なるからです。水の沸点は100度であるのに対し、アルコールの沸点は78度です。そのため、蒸留により集められた液体は沸点の低いアルコールを多く含みます。
蒸留酒は、そのまま飲んだり、水などの割り物を加えてアルコール度数を調整して飲んだりします。蒸留酒で代表的なお酒は、焼酎・ウイスキー・ブランデーなどです。
穀物などの発酵液を蒸留したのが焼酎、麦芽などの発酵液を蒸留したのがウイスキー、果実酒を蒸留したのがブランデーと呼ばれます。
混成酒とは?
混成酒とは、醸造酒や蒸留酒に香料・糖・果実・薬草・ハーブなどを加えたお酒です。混成酒で代表的なお酒は、梅酒・リキュール・べルモットなどです。
蒸留酒にコーヒーや香料を加えたものがカルーア、焼酎や日本酒に梅を加えたのが梅酒となります。蒸留酒に果実・香草・花などの香味成分や甘味を加えたり着色したりしたものがリキュール、ワイン(主に白ワイン)にニガヨモギ・コリアンダー・ナツメグなどの数十種類のハーブやスパイスを加えたものがベルモットです。
醸造酒の3つの発酵方法を紹介!
醸造酒のアルコール発酵には、大別すると3つの発酵方法があります。「並行複発酵(へいこうふくはっこう)」「単発酵(たんはっこう)」「単行複発酵(たんこうふくはっこう)」です。日本酒は並行複発酵、ワインは単発酵、ビールは単行複発酵で製造されます。
それぞれの発酵方法には、どのような違いがあるのか、確認していきましょう。
並行複発酵
並行複発酵は、「糖化」と「発酵」の2つの工程を同時並行で行う発酵方法です。日本酒は、並行複発酵で製造されるお酒で、この発酵方法を採用することで日本酒特有のまろやかさと味わいを生み出します。
- 糖化:デンプン質→糖
- 発酵:糖→アルコール
原料に糖が多く含まれていれば、酵母菌を加えるだけでアルコールになります。しかし、日本酒の原料のお米はそれほど糖を含んでいません。そのため、麹(こうじ)によりデンプン質を糖に分解する糖化の工程が必要です。
並行複発酵は、糖化を行ったあとに糖を酵母菌によって発酵させるのではなく、糖化を行いながら糖を酵母菌によって発酵させます。
並行複発酵は、徐々に糖化が進みながら同時に発酵も行われるため、蒸留をしなくても20度程度の高濃度アルコールを製造できます。
糖の濃度が高くなりすぎると、酵母菌は糖を消費してアルコールを生成できず、発酵が進みません。しかし、並行複発酵ならそのような問題は発生しないため、効率的に高濃度アルコールを製造することが可能です。
単発酵
単発酵とは、糖が多く含まれている原料に酵母菌を加えて発酵させる発酵形式です。糖化を行わずに発酵のみを行います。
単発酵で代表的なお酒は、ワインです。原料のブドウには糖が豊富に含まれているため、ブドウ果汁に酵母菌を加えて発酵させればワインになります。
単発酵には、他にも果実酒・乳酒・樹液酒・蜂蜜酒などがあります。単発酵は製法がシンプルであるため、原料の品質がそのまま味に反映されるのが特徴です。
単行複発酵
単行複発酵とは、デンプン質を糖に分解したあとに発酵を行う発酵形式です。「糖化」と「発酵」の工程を別々に行います。
単行複発酵で代表的なお酒は、ビールです。麦のデンプン質を麦芽の糖化酵素で分解して麦汁を作り、麦汁を発酵させたものがビールとなります。
日本酒の造り方全工程を紹介!
長い歴史を有する日本酒は、特有の香りや甘味、味わいから、日本のみならず海外でも「SAKE」の名称で愛されています。
日本酒は、複雑で巧妙かつ手間のかかる日本酒独自の製法によって造られています。世界に誇る日本酒は、どのようにして造られているのでしょうか。ここでは、作り方を流れに沿って解説します。
1.精米
日本酒の主原料であるお米の精米から、日本酒造りはスタートします。精米とは、玄米から表層部を削り取ってお米を磨く工程です。
玄米の表層部分に含まれている栄養素は、雑味の原因になります。そのため、精米により表層部分を取り除きます。
精米して残ったお米の割合を精米歩合(せいまいぶあい)と言いますが、精米歩合が高いお米で造られた日本酒ほど、一般的に雑味がなくクリアな味わいになります。
日本酒には食用米ではなく、酒造り専用の「酒米(さかまい)」が使用されることが多いです。その中でも、特に日本酒造りに適したものが「酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)」です。
2.洗米・浸漬(しんせき)
精米したお米は、水洗いし、水に浸けます。
洗米は、精米で取れなかったお米の糠(ぬか)と汚れを落とすために行う工程です。洗米のあと、お米を水に浸して適量の水分を吸収させ。お米を水に浸す工程を浸漬と言います。
浸漬は、日本酒造りにおいて非常に重要な工程です。お米の水分量が多くても少なくても、日本酒造りの要である麹造り(こうじづくり)がうまくいきません。
各酒造は、その時々の気候や温度だけでなく、酒米の品種により浸漬時間を秒単位で調整して、お米に最適な量の水分を吸収させています。
3.蒸米
水分を吸収させたお米を、甑(こしき)という和釜や蒸米機で蒸す工程を蒸米と言います。蒸米により、お米を日本酒造りに適した水分量に調整します。蒸米の良しあしは、麹造りなどの工程や酒質に大きく影響します。
酒造りにおいて、お米は炊くのではなく蒸すのが特徴です。お米を蒸すことで、外側は硬く、内側は軟らかい「外硬内軟(がいこうないかん)」の状態に仕上がります。お米を炊いてしまうと、水分を必要以上に吸収してお米が軟らかくなってしまうのです。
外硬内軟のお米は、麹造りにおいて麹の菌糸がお米の内側に入り込みやすく、仕込みにおいてお米が程よく溶けることで発酵が順調に進みます。蒸米したお米は、各工程に適した温度に冷まします。
4.麹造り
蒸米したお米から、日本酒造りにおいて必要不可欠な麹を造ります。この麹造りは、製麹(せいきく)とも言われます。麹とは、蒸した米などに麹菌を付着させて培養したものです。
蒸米したお米を30度程度に保温された麹室(こうじむろ)に移し、広げたお米に麹菌を付着させ、3日間かけて麹菌を繁殖させます。
麹は、デンプン質分解酵素(アミラーゼ)やタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)などのさまざまな酵素を生成します。酵素の力で、デンプン質は糖に変わり、タンパク質はうま味に変わるのです。
お米はそれほど糖を含みません。したがって、デンプン質を糖に変える麹を造る麹造りは、日本酒造りの要の工程だと言えるでしょう。
5.酒母(しゅぼ)造り
蒸米したお米・麹・水・酵母・乳酸を混ぜ合わせて発酵させ、酵母を培養します。酵母は、糖を分解する微生物で、英語ではイーストと呼ばれます。酵母は糖をアルコールと炭酸ガスに分解する働きをするため、アルコール発酵のために不可欠な存在です。
酵母を大量に培養したものが酒母です。酒母は、酛とも呼ばれ、一般的に2週間から1カ月で完成します。なお、生酛(きもと)造りという昔ながらの製法の日本酒は、乳酸を添加しません。
6.もろみの仕込み・発酵
酒母に蒸米したお米・麹・水を加え、約3週間から1カ月かけて発酵させます。この混合物の発酵した状態のものが「もろみ」です。もろみは、蒸米したお米・麹・水を3回に分けて、徐々に量を増やしながら仕込みます(三段仕込み)。
もろみの仕込みは4日間かけて行われ、各仕込みを「初添え(はつぞえ)・添え仕込み」「踊り(おどり)」「仲添え(なかぞえ)・仲仕込み」「留添え(とめぞえ)・留仕込み」と言います。
留添えしたあと、もろみは並行複発酵で徐々に糖化しつつ発酵します。本醸造酒なら20日から25日程度、吟醸酒なら4週間から5週間程度かけて、もろみが完成します。
もろみの温度は発酵により生じる熱で徐々に上がるため、温度管理が必要不可欠です。「櫂(かい)・櫂棒」で混ぜたり、筒に水を通したりして温度を調整します。
7.上槽(じょうそう)(搾り)
もろみを搾って、日本酒と酒粕(さけかす)に分ける工程を上槽と言います。
もろみの搾り方は、大別すると以下の通りです。
- 袋吊り(ふくろづり):もろみを袋に入れて、重力で搾る方法です。手間暇がかかるため、高級な日本酒に使用されます。「雫酒(しずくざけ)」「斗瓶囲い(とびんかこい)」とも言います。圧力を加えていないため、日本酒は雑味が少なく繊細ですっきりした味わいです。
- 槽がけ(ふながけ):槽(ふね)と呼ばれる箱にもろみを入れた袋を並べ、上から圧力をかけて絞る方法です。「槽搾り(ふなしぼり)」とも言います。やさしく絞るため、雑味がでにくい圧搾(あっさく)方法です。
- 圧搾搾り:自動圧搾機で絞る方法です。自動でスピーディーに圧搾できるため、主流の方法となります。
8.ろ過
上槽したあとの日本酒は、米や酵母などの小さな固形物が混じっています。このため、ろ過により固形物を取り除きます。ろ過は、活性炭やフィルターを使用するのが一般的です。
ろ過をすることで、無色透明で雑味のないすっきりとした味わいの日本酒になります。
日本酒はろ過をするのが一般的ですが、中には無ろ過の日本酒もあります。無ろ過の日本酒は、香味がしっかりとしていて、日本酒本来の深い味わいを楽しむことが可能です。
9.火入れ
ろ過のあとには、1回目の火入れを行います。未加熱の状態では、残された酵素により発酵が進み、味が変化してしまいます。そのため、60度から65度程度で湯煎のような方法により加熱し、酵母を失活させることが必要です。
加熱処理により、日本酒を劣化させる火落菌(ひおちきん)を殺菌し、日本酒の腐敗を防ぎます。火入れは、日本酒を長期間おいしく飲むために必要な工程です。
10.貯蔵・調合・割水
火入れをしたあとは、日本酒を貯蔵して熟成させます。貯蔵期間は、半年から1年が一般的です。貯蔵により、アルコールの分子と水の分子は融合し、まろやかな酒質に変化します。
熟成した日本酒は、日本酒度(日本酒の比重)やアルコール度数などの品質が一定になるように、別のタンクのものとブレンドしたり加水したりすることがあります(調合)。
前述したように、並行複発酵の日本酒はアルコール度数が高いため、水を加えてアルコール度数の調整を行うこともあります(割水)。
12.ろ過・火入れ(2回目)
日本酒は、通常2回火入れをします。タイミングは、「貯蔵前」と「瓶などに詰めて出荷する前」です。1回目の火入れと同様に、60度から65度程度で湯煎のような方法で加熱殺菌をし、日本酒の品質を安定させ保存性を高めます。
詳しくは後述しますが、一度も火入れを行わない「生酒(きざけ・なまざけ)」や、一度だけ火入れを行う「生詰酒(なまづめしゅ)」「生貯蔵酒(なまちょぞうしゅ)」という日本酒もあります。
これらの火入れをしない製法であれば、日本酒特有の味わいやフレッシュな味わいを楽しむことが可能です。貯蔵している際に発生する固形物を取り除くため、2回目の火入れの前に活性炭で再びろ過を行うケースもあります。
13.瓶詰
日本酒造りの最後の工程が、瓶詰です。洗浄してホコリや汚れを落とした瓶に、温度管理に留意しながら日本酒を詰めます。瓶詰をした日本酒は、1本ずつ検品されたのち、品質維持のため冷却されます。
日本酒は、このように数多くの細やかな工程を経て製造されるのです。
日本酒造りの年間スケジュールとは?
日本酒造りの年間の大まかなスケジュールを紹介します。
- 5月:原料となるお米を作付けます。
- 7月:酒造年度が開始。新年度の酒造りに向けて、用具などの準備をします。
- 9月~11月:実った稲を収穫・精米します。日本酒の仕込みが始まります。
- 12月~翌年3月:12月になると、本格的な日本酒の仕込みが開始されます。気温の低い冬場に日本酒を醸造することを「寒造り(かんづくり)」と言います。
- 4月:1月から3月に出荷した新酒以外の日本酒を貯蔵します。熟成した日本酒は、翌年に火入れをして出荷します。貯蔵作業の終了後、翌年度の田植えの準備をします。
日本酒造りは、上記のサイクルで行われています。
日本酒は火入れの有無やタイミングで味が変わる!
日本酒は火入れを行うかどうかや、火入れのタイミングで大きく味が異なります。ここでは、「生酒」・「生詰酒」・「生貯蔵酒」という3つの種類の作り方や味の特徴を紹介します。
生酒
加熱処理がされていない日本酒を、生酒と言います。日本酒は、品質を安定させ保存期間を延ばすために、2回の火入れを行ってから出荷されるのが通常です。しかし、生酒は1回も火入れをしていない状態で出荷されます。
生酒は、フレッシュでスッキリとした味わいが特徴です。コクや深みは少ないものの、日本酒本来の香りも楽しめ、ものによっては炭酸ガス感もあります。
加熱処理がされていないため、品質が変わりやすいのが生酒の特徴です。開栓後は冷蔵庫で保存し、できる限り早く飲むようにしてください。
生詰酒
貯蔵前のタイミングで火入れを行い、瓶などに詰めて出荷する前のタイミングには火入れを行わない日本酒が生詰酒です。日本酒を「生の状態で詰める」ことが生詰の由来です。
生詰酒の多くは、冬から春に圧搾した日本酒を火入れし、秋口まで貯蔵・熟成されています。そのため、フレッシュな味わいがあるものの、やや熟成感があってとろみがあり、カドのとれたまろやかな旨みが特徴的です。
秋口まで熟成させることから、生詰酒は「ひやおろし」や「秋上がり」とも呼ばれます。一度火入れはされていますが生詰酒も冷蔵庫での保存がおすすめです。
生貯蔵酒
貯蔵前のタイミングでは火入れを行わず、瓶などに詰めて出荷する前のタイミングには火入れを行う日本酒が生貯蔵酒です。
生のまま貯蔵されているためフレッシュな味わいがあり、ふくよかな風味を楽しめます。口当たりはまろやかです。
生酒ほど品質管理に留意する必要はありません。しかし、一般的な日本酒と比較すると生貯蔵酒も品質が変化しやすいお酒のため、できれば生貯蔵酒も冷蔵庫での保管がおすすめです。
日本酒造りには多くの工程が必要!いろいろな日本酒を試してみよう
日本酒は、10を超える工程を経て製造され、その工程一つひとつに、おいしい日本酒を提供するための技巧が凝らされています。
日本酒は、並行複発酵という世界的に見ても珍しく高い技術力を必要とする発酵方法で製造されているアルコールです。それゆえに、多くの人を魅了する特有の香りや甘味、味わいがあります。
日本酒を選んだりたしなんだりする際は、日本酒のおいしさを支えている製法を思い出してみてください。