香りや色、味わいなど、さまざまな楽しみがある「日本酒」。職人の技術や伝統まで感じられる日本文化の一つであり、お酒好きにとってお気に入りの1本は最後の一滴までおいしく飲みたいものです。
また近年では、宅飲み文化も浸透したことで、自宅で日本酒をたしなむ人も増えています。
しかし、「常温で大丈夫?」「おみやげでもらったけど賞味期限ってあるの?」など、日本酒の保存方法や賞味期限について疑問を抱えている方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、日本酒の適切な保存方法と賞味期限の目安を紹介します。正しい方法で保存して、日本酒をよりおいしく、長く楽しみましょう。
日本酒の適切な保管方法を紹介!
職人のこだわりや製造地ごとに異なる日本酒の魅力を最大限に感じるために、種類に応じた適切な保管方法を紹介します。
ちょっとした工夫を取り入れるだけで、本来のおいしさや香りを長く楽しめますよ。
紫外線を避ける
日本酒にとって最大の敵は紫外線。
日本酒を直射日光が当たる場所に長時間置いていると、「日光臭」が生じてしまいます。
日光臭は太陽の光や紫外線によって発生する、焦げたようなにおいです。
さらに、日光だけではなく、室内照明の光に当たることでも味や香り、風味は変化します。
日本酒は冷暗所に置くことはもちろん、冷蔵庫内で保管する場合も箱に入れたり新聞紙で包んだりして、できるだけ直接光が当たらないよう工夫しましょう。
瓶を立てて保管する
日本酒は必ず「縦置き」で保管してください。
ワインの場合は横に寝かせて保管することで、ワインの瓶を塞いでいるコルクの乾燥を防ぐことが可能です。
しかし、日本酒を横に寝かせると、中のお酒が瓶内の空気に触れる面積が増え、酸化によって成分が変化してしまいます。
また、日本酒は金属製の蓋が使用されている瓶が多く、それらとの接触により酸化や腐食が起こるおそれもあります。
低温の場所に置く
紫外線を避けることと同じくらい重要なのが温度管理です。
日本酒の種類によって保存に適した温度は若干異なりますが、どの日本酒でも高温は避けなければいけません。
高温で長期間保管すると、「老香(ひねか)」と呼ばれる劣化臭が発生することがあります。
また、金属の蓋で密閉されているため、湿度が多いと錆やカビの発生にもつながります。湿気が少なく、急激な温度変化のない環境での保存が理想的です。
冷暗所で保管するのがおすすめな日本酒の種類
日本酒のなかでも、「純米酒」「本醸造酒」「古酒」は、冷暗所での保管がおすすめです。(ただしラベルに「生酒」「生貯蔵酒」と記載されている場合は冷蔵庫での保存が必要)
これらの日本酒は、製造過程において「火入れ」と呼ばれる加熱処理を施しており、比較的品質が安定しています。
「火入れ」を行うことで、日本酒の酵母菌を死滅させ、酵素のはたらきを弱める効果が期待できます。つまり、日本酒の発酵が止まるため、常温においても一定の品質を保つことが可能です。
直射日光が当たらず、比較的温度が低い場所で保管することで、風味や色、味わいなどを損なうことなく長期間楽しめるでしょう。なお、冷蔵庫に入れて保存しても問題ありません。
冷蔵庫で保管するのがおすすめな日本酒の種類
冷蔵庫での保管が推奨されるデリケートな日本酒もあります。
正しい保管・保存方法を取り入れて、品質を維持しながらおいしくたしなみましょう。
生酒や生貯蔵酒
ラベルに「生酒」もしくは「生貯蔵酒」と記載されている日本酒は、冷蔵庫での保存が基本です。
「生酒」は、本来製造過程において2回行う火入れ作業をしていない日本酒です。
加熱処理せず瓶に詰めているため、通常の日本酒と比較して品質の変化が早くなります。冷蔵庫に保管し、できるだけ早く飲みきりましょう。
「生貯蔵酒」においては、1度火入れを行っているため「生酒」ほどデリケートではありません。しかし、状態は変化しやすいため、こちらも冷蔵庫で保管してください。
吟醸酒や大吟醸酒
「吟醸酒」や「大吟醸酒」も冷蔵庫で保管したい日本酒です。「吟醸酒」は、精米歩合60%以下の米を長期低温熟成させた日本酒です。「大吟醸酒」は、精米歩合50%以下の米を使用しています。
吟醸酒と大吟醸酒の最大の特徴は、「吟醸香」というフルーツのような華やかな香りです。
しかし、高温で保管すると熟成が進みすぎ、せっかくの吟醸香が失われてしまいます。冷蔵庫で保管し、風味豊かな香りを楽しみましょう。
栓をあけてしまった日本酒
上記の日本酒以外にも、栓を開けてしまった日本酒はいかなる種類でも冷蔵庫で保管しましょう。
開封すると空気に触れることで日本酒の「酸化」が進み、変色したり酸味が増したりします。
開けたてのフレッシュな状態を楽しみたい場合は、冷蔵庫で保管しながら3~5日以内に飲みきるのが理想的です。
ただし、必ずしも「酸化」が悪いこととは限りません。種類によっては旨味が増したり穏やかな味わいになったりする日本酒もあります。
好みに応じて、熟成を楽しむのも日本酒の醍醐味です。
日本酒には賞味期限がない?
ほとんどの食料品のパッケージに表記されている賞味期限。
実は、日本酒のラベルを見ても賞味期限の記載がありません。日本酒には賞味期限という概念がないのでしょうか?
ここでは、日本酒の「賞味期限」について確認していきましょう。
日本酒に賞味期限の記載がない理由
日本酒だけではなく、ワインやカクテルなどお酒類全般に当てはまることですが、食品表示法において消費期限・賞味期限の表示が免除されています。
酒類については、「保存の方法」、「消費期限又は賞味期限」、「栄養成分(たんぱく質、脂質、炭水化物及びナトリウム)の量及び熱量」の表示を省略することができます。ただし、これらの事項を表示する場合には、食品表示基準に沿った表示を行う必要があります。
国税庁HP|食品表示法における酒類の表示のQ&A
このように、日本酒のラベルには賞味期限を記載しなくてよいと法律で認められています。しかし、よく探してみると日本酒のラベルには日付が記載されています。これは賞味期限ではなく「製造年月」です。
製造年月ってなに?
では「製造年月」とは具体的に何を表しているのでしょうか?
多くの日本酒は、瓶詰めされたときや出荷時期の年月を製造年月として表記しています。
つまり、中味の日本酒が完成したタイミング=製造年月ではありません。日本酒の完成後、しばらくしてから瓶詰めを行う場合もあります。
また一度瓶詰めした日本酒であっても、貯蔵していた場合は出荷するときの日付を製造年月と表記できるため、製造年月だけでは日本酒の新しい・古いを判断することはできません。
日本酒の賞味期限のおおよその目安を紹介
賞味期限の表示がない日本酒ですが、年月が経つにつれて味わいは変化していきます。
ここでは、日本酒をおいしく飲める期間の目安を紹介します。
開封前の日本酒の賞味期限の目安
通常、日本酒は製造段階で火入れと呼ばれる加熱処理を施し、発酵を止めることで、飲み頃の味わいや品質を保てるよう作られています。
また、密封するため衛生状態にも優れており、未開封であれば、本醸造酒や普通酒の場合は製造から約1年以内、純米酒や吟醸酒・生詰酒・生貯蔵酒の場合は約8~10ヶ月以内はおいしくいただけます。
火入れを行わない生酒においては、約6~8ヶ月までがおいしく飲める期間の目安とされています。
一口に日本酒と言っても、種類や添加物などの違いによっておいしく飲める期間が異なるため注意が必要です。購入の際は表示ラベルを確認し、それぞれの特性に合わせた環境で保管した上で、期間内に飲み切るようにしましょう。
開封後の日本酒の賞味期限の目安
お酒に限らず、一度開封した食べ物・飲み物は空気に触れて酸化し、品質や風味が時間を追うごとに落ちていくため、早めに処理する必要があります。
賞味期限がないと言われる日本酒も例外ではありません。
アルコールの殺菌効果によって腐ることはないものの、発酵がすすんで劣化してしまいます。作り手が伝えたい本来の味を楽しみたいのであれば、開封後はできるだけ早く飲み切りましょう。
本醸造酒や普通酒・純米酒は開封から約1ヶ月、風味豊かな吟醸酒や少ない火入れ回数で製造される生詰酒・生貯蔵酒は約1週間、生酒に関しては数日以内に飲み切ることをおすすめします。
日本酒の保管にこだわりたいなら日本酒セラーの利用もおすすめ
環境の影響を受けやすい日本酒を適切に管理する方法の一つとして、日本酒セラーの活用があります。
日本酒の多くは常温保存が可能なものの、夏場は気温が高く、温度変化による風味の劣化も心配になるでしょう。冷蔵庫に保管するのがベストですが、スペースをとってしまいます。
日本酒セラーがあれば、家庭でも徹底した温度管理ができるほか、冷蔵庫に入りにくい一升瓶サイズの日本酒も立てて保存することが可能です。
また、冷蔵庫のように頻繁に開閉を行う必要がないため、温度を一定に保てるとともに、紫外線による品質の低下も防いでくれます。
日本酒セラーを導入することで、手軽に品質管理を実現でき、いつでも適温でお酒を楽しめるようになるでしょう。
日本酒の賞味期限切れのサインとは?
長期保存に耐えられる日本酒ですが、保存状態や種類によっては、思ったよりも劣化が早く進んでしまうケースがあります。
飲み頃に気を配るだけではなく、健康への影響も考慮し、見た目や匂いの変化を日頃からチェックすることが大切です。
色が変化している
無色透明と思われがちな日本酒ですが、含有されるアミノ酸の影響により、若干黄色がかっているものもあります。
熟成するにつれて茶色味を帯びてくることはあるものの、本来であれば飲んでも問題ありません。しかし、あまりに変色が進んでいると、味や香りが大きく変化している可能性があります。
温度が高い場所や、日光があたる場所に置いておくと色が変化しやすくなるため、冷蔵庫や直射日光のあたらない冷暗所で保管しましょう。
風味が落ちている
見た目や匂いは問題なさそうでも、口に含んだときにアルコールのしつこさだけが残るようであれば、賞味期限が切れている可能性があります。
「苦みや酸味が舌にまとわりつく」「開封時に感じた香りがなくなっている」といった変化が、飲み頃を過ぎているかどうかを判断する目安です。
酸化による品質変化が主な原因のため、飲めないことはありませんが、料理など別の用途に使うことも検討してください。
にごっている・沈殿物が浮かんでいる
購入したときは透明だったはずが、白濁していたり澱のようなものが見られたりする場合は、風味がかなり落ちている状態です。
60℃以上に加熱してみてにごりが消えれば、もともと日本酒に含まれるたんぱく質が凝固したものであるため心配ありません。
しかし、もし消えないようであれば、菌が繁殖している可能性が高いため、そのまま飲むのは避けましょう。これは、火落ち(ひおち)菌という特殊な菌が増殖することによって起こる現象で、日本酒の風味や香りが大きく損なわれてしまいます。
なお、にごり酒のように販売の段階から沈殿物が入っているものは、蔵元が徹底管理の上で製造しているため、安心して飲むことができます。
異臭が発生している
本来の豊潤な香りとは異なり、ツンとするにおいが生じている場合も注意が必要です。これは、老香(ひねか)と呼ばれるたくあんのような匂いで、酸化が進んでしまった際に生じます。
また、ヨーグルトのような酸味のある匂いや、獣の匂いのような日光臭など、発生する要因によってにおいの種類は変わってきますが、異臭はすべて賞味期限が過ぎているサインだと覚えておきましょう。
賞味期限の目安を過ぎた日本酒の活用方法
賞味期限の目安を過ぎてしまった場合でも、すぐに飲めなくなるわけではありません。
見た目や匂いに問題がなければ、料理をはじめとするさまざまな用途にも活用できます。賞味期限の目安を過ぎた日本酒の活用方法について見ていきましょう。
料理に使用する
「開封したものの飲み切れなかった日本酒が冷蔵庫に眠っている」というケースはよく見られます。そのまま飲み切ることが難しいときは、料理に活用してみましょう。
煮物や汁物に日本酒を加えるだけで味に深みが出るため、本格的な和食づくりに挑戦したい方におすすめです。肉や魚の生臭さを消してくれるほか、柔らかい食感に仕上がります。
また、お米を炊くときに日本酒を少量入れると、ふっくらとした仕上がりになるなど、使い道が豊富なことも嬉しいですね。
実際に味を確認しながら、好みの味付けに調整していくとよいでしょう。
掃除に活用する
日本酒ににごりや異臭が生じている場合は、そのまま飲んだり料理に使ったりすることは推奨できません。そこで、日々の掃除に活用するのもおすすめです。
日本酒はお酒なので、当然アルコールが含まれています。アルコールには除菌効果があり、キッチンなどの油汚れが気になる場所の掃除に便利です。
分量は、水500mlに対して日本酒を大さじ1~2杯。スプレーボトルなどに入れると使いやすいでしょう。雑巾やキッチンペーパーなどにスプレーして、汚れの気になる部分を拭き取っていきましょう。
掃除後にアルコール成分が残っていると引火するおそれがあるため、仕上げの際はしっかりと洗い流すか、水拭きをしてください。
さらに、材質によっては変色してしまう場合があります。はじめに目立たない部分で試すことをおすすめします。
保存方法に気をつけて日本酒を楽しもう
日本酒におすすめの保存方法や賞味期限の目安について解説しました。
日本酒には、基本的に賞味期限はありません。しかし、種類や保管方法によって、おいしく飲める期間が異なるため注意が必要です。体への悪影響を避けるためにも、品質の変化を見逃さないようポイントを押さえておきましょう。
取り扱いがデリケートな日本酒だからこそ、それぞれに合った環境で適切に管理し、できるだけ長く本来の味わいや香りを堪能したいものですね。