かつて地酒がブームになったこともありましたが、地酒とはどのようなお酒なのかわからないという方もいらっしゃるかもしれません。
また、地酒に興味があっても「知識がなくて何を飲めばいいのか分からない」「どれが地酒なのかわからない」いう方も多いのではないでしょうか。
この記事では、地酒について詳しくなりたい方のために、地酒の定義や歴史、地域別の特徴や美味しい飲み方などを紹介します。この機会に、地酒の奥深い魅力を理解してみましょう。
そもそも地酒ってなに?
実は、地酒には明確な「定義」がありません。国語辞典には「その土地でつくられる酒。その土地独特の酒。いなか酒。」「一般的に、全国規模で流通する大手メーカーの製品や、日本酒の主産地の兵庫県の灘エリア、京都府の伏見エリア以外で造られる日本酒」などと記載されています。
江戸時代における日本酒の主要生産地は灘や伏見で、それ以外の地域で生産されたお酒が地酒と呼ばれていました。現在ではやや意味合いが変化し、灘や伏見以外のエリアで小規模生産されたアルコール飲料を指す言葉として用いられています。
そのため、大手メーカーが販売し、全国で流通している日本酒は地酒とは呼ばれません。地域性の有無が、地酒がどうかを考える際の基準の一つになります。
地酒・日本酒・清酒の違いとは?
清酒の歴史は古く、紀元前四世紀の稲作伝来と共に始まったと考えられています。
酒税法では「原料に米、米こうじ、水、その他政令で定める物品を使用し、発酵させた醪(もろみ)をこす製法で造られた酒」が清酒と定義されています。
つまり、清酒かどうかを判断するポイントは製法です。生産地が日本であっても海外であっても、法令に沿って造られていれば清酒となります。
一方、国税庁が定義する「日本酒」は清酒よりも条件が厳格です。原料の米、米こうじは日本産でなくてはなりません。また、醸造場所も日本に限られています。
海外産の米を使用した清酒や日本以外で造られた清酒が日本国内に輸入されても「日本酒」とは表示できません。日本の風土と結びついて育まれた日本酒の文化的価値を保全するため、法令に基づき保護されているからです。
なお、地酒とは清酒の一種です。さきほど述べたように、地域と結び付いた日本酒などのお酒に対して用いられます。
「地酒ブーム」はいつからはじまった?
地酒という言葉が広く知られるようになったのは、昭和の後期です。
戦前から続いていた級別制度の下では、日本酒は国税庁の画一的な審査を経て「特級」「一級」「二級」などとランク付けされていました。酒の造り方を開示する義務もなかったため、消費者はランクだけで日本酒の良し悪しを判断するしかありませんでした。
しかし、級別制度が廃止され、製造方法や味の特徴を基準にした分類が登場します。その結果、大手が造る特級酒から地方の小さな蔵が造る地酒へ消費者の関心が移っていきました。
新潟産の日本酒を中心に地酒ブームが起こり、やがて日本全国の優れた蔵元が注目を集めるようになります。そして、地酒は地域の特産品としての地位を確立し、日本の文化として定着しています。現在ではネット通販や居酒屋などで気軽に地酒を楽しめるようになりました。
【地域別】地酒の特徴と有名な銘柄
地酒を飲んでみたいと思っても商品数が多く、何を買えばいいのか迷ってしまいますよね。
ここでは、地域別に地酒の特徴と有名な銘柄を解説します。自分に合った地酒を探す際の参考にしてください。
北海道
北海道の地酒は一般的に癖がなく、すっきりとした味わいを特徴としています。
北海道での日本酒造りの歴史は長くありませんが、寒冷な気候と広大な自然に恵まれており、数多くの蔵元が北海道の海の幸に合う美味しい地酒を造っています。また、近年では芳醇・濃厚な地酒も高い評価を得ており、幅広い味わいを楽しめるのも特徴です。
代表的な銘柄としては、「千歳鶴」「北の錦」「福司」などが挙げられます。他にも日本最北端の蔵元が造る「国稀(くにまれ)」や万年雪の伏流水を使用している「男山(おとこやま)」などが人気を集めています。
東北
きめ細かくキレイな味わいを楽しみたいなら、東北の地酒がおすすめです。
積雪が多く気温も低い環境を活かした長時間の低温発酵が、東北の地酒独特の風味を生みだしています。多くの蔵元が新酒鑑評会などで称賛されており、クオリティの高さは折り紙付きです。
また、東北は酒造米の開発に力を入れてきたエリアでもあり、フルーティな味わいから深い旨味まで幅広いテイストの地酒を楽しめます。
山形の「出羽桜」、青森の「田酒(でんしゅ)」、岩手の「赤武(あかぶ)」、など日本酒ファンから熱い支持を集める銘柄が東北の地で造られています。
色々な地酒を試して自分好みの銘柄を探したい方は、ぜひ東北の地酒を試してみてください。
関東
群馬、栃木、東京の地酒は淡麗甘口が主流と言われ、それ以外の地域は淡麗辛口なテイストを楽しめます。
関東の温暖な気候は酒造りに不向きとされていたため、酒造の数は他の地域より少なめです。しかし、近年では豊かな水源や高い技術、そして都心特有の豊富な情報量を活かし、高品質な地酒が生産されています。
埼玉の「花陽浴(はなあび)」、神奈川の「いづみ橋(いづみばし)」、東京の「澤乃井」など日本中から愛されている銘柄が数多く存在しますが、特に注目したいのが栃木の「鳳凰美田(ほうおうびでん)」です。フルーティで清らかな味わいは、日本酒ビギナーにも飲みやすいと評判です。
中部
中部エリアは面積が広く、地域それぞれのオリジナリティを有しています。かつて地酒ブームを巻き起こした新潟の酒蔵は、日本酒醸造と米作りに適した風土を活かして高品質な地酒を数多く販売しています。
新鮮な魚介類と一緒に楽しめる、淡麗辛口な味わいが特徴です。「久保田(くぼた)」や「八海山(はっかいさん)」などは、日本酒に詳しくない方でも名前を聞いたことがあるでしょう。
山間部の長野や山梨は気温の寒暖差や豊富な水源など美味しい地酒を造る条件が整っているため、数多くの歴史ある蔵元が存在します。
愛知などの東海地方も高い知名度を誇る銘柄が揃っており、パリの3つ星レストランでも採用されている「醸し人九平次(かもしびとくへいじ)」などが代表例です。
近畿
日本酒発祥の地とも言われる奈良、長年日本酒の主要産地であった伏見・灘を擁する近畿エリアには、伝統ある酒蔵が数多く存在します。
自然豊かで米作りが盛んな地域が多く、1000年に及ぶ酒造りの伝統を誇る一方で新進気鋭の酒蔵も注目を集めています。
全体的には伏見に代表されるまろやかな口当たりの酒蔵が多い傾向にありますが、味の濃い料理が多い大阪では淡麗辛口が主流です。また、灘の力強いテイストも高い評価を得ています。
「地酒は伏見・灘以外のお酒」という定義を厳格に守ったとしても、滋賀の「大治郎(だいじろう)」、和歌山の「雑賀(さいか)」など数多くの有名地酒銘柄の名を上げられるほど、クオリティの高い地域です。
中国
中国地方は甘口の地酒が多いエリアです。軟水特有の柔らかい喉越しも特徴で、飲みやすい地酒を探している人におすすめです。日本酒慣れしていない人にも親しみやすい味わいでセンセーショナルな人気を巻き起こした、山口県の「獺祭(だっさい)」の産地としても知られています。
魚や味の濃い料理に合わせやすいのも特徴です。瀬戸内海側の広島の酒蔵では「富久長 白麹 シェルラバーズ」など牡蠣に合う地酒づくりにも力を入れています。
また、中国地方は酒造りの長い伝統を有するエリアでもあります。奈良に並んで日本酒発祥の地とも言われる島根や、銘酒「白牡丹(はくぼたん)」で名を馳せる「酒都」西条などが全国的にも有名です。
四国
四国は日本酒造りに向かないとされる温暖な気候のエリアですが、標高の高い山地や日本三大清流に数えられる四万十川など豊かな水源の恩恵を受けながら、高品質な地酒を造り続けてきました。
お酒好きの多いエリアとして全国的に知られる高知には辛口の地酒が多く、「酔鯨(すいげい)」や「船中八策(せんちゅうはっさく)」などが知られています。観光地にも明るい時間から地酒を飲めるスポットが存在します。気になる方は足を運んでみてください。
一方、香川、徳島、愛媛では口当たりの良い甘口の地酒が多く、白身魚など淡白な食材と合うテイストが好まれています。「梅錦(うめにしき)」「川亀(かわかめ)」「鳴門鯛(なるとたい)」などが代表的な銘柄です。
九州・沖縄
福岡や沖縄の地酒は淡麗辛口な味わいを楽しめますが、それ以外のエリアは甘口が中心です。焼酎のイメージが強い地域ですが、冬場の気温が低く稲作が盛んな北九州は日本酒生産にも適しています。酒米 山田錦(やまだにしき)の産地としても有名な福岡では60以上の酒蔵が酒造りを行っており、「庭のうぐいす」「若波(わかなみ)」などが人気の銘柄です。
黒麹を地酒造りに使用するなど、焼酎の地域らしいアイデンティティを感じられる酒蔵の存在も見逃せません。
大分の地酒はさっぱりとした風味と甘みが魅力です。「ちえびじん」などイタリアンにも合う日本酒も販売されています。
また、沖縄には日本最南端の酒蔵として知られる泰石酒造が存在。芳醇な旨味と凛としたキレを兼ね備えた「黎明(れいめい)」が、日本酒ファンから注目を集めています。
地酒の美味しい飲み方を紹介!
地酒に興味はあるけど、どんな飲み方をすればいいか分からないと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
ここでは、地酒の美味しい飲み方をいくつか紹介していきます。
温度を変えて楽しむ
温度を変えるだけで様々な顔を見せてくれるのも日本酒の魅力です。冷やの5℃から熱燗の55℃以上まで幅広い温度で楽しめるアルコール飲料は世界的に見ても希少です。
一般的には温度が上がると米の風味が引き立ち、風味が豊かになります。雑味が弱まり飲みやすくなりますが、酔いが回りやすくなるため気を付けてください。
日本酒本来のテイストを楽しみたいなら常温でトライしましょう。酒が持つ風味が最も出やすい温度だからです。雑味やえぐみなど複雑な味わいも如実にあらわれます。そのため、常温で美味しく飲める日本酒は、日本酒ファンから高く評価されています。
すっきりとした味わいを求めるなら冷酒がベストです。日本酒独特の雑味や香りが控えめで、風味は爽やか。ビギナーにも飲みやすいため、日本酒の世界に足を踏み入れたばかりの方にもおすすめです。
いろいろな料理にあわせて楽しむ
地酒の風味は銘柄によって大きく異なります。そのため、一緒に食べる料理に合わせたチョイスができるのも特徴です。
茶碗蒸しや冷奴のような優しい甘みのある料理には普通・本醸造系の爽やかな地酒がマッチします。おつまみ、お刺身、魚の塩焼きのように素材の味を活かした料理には吟醸系のフルーティなタイプが向いています。
また、肉料理、野菜炒め、クリーム系など濃いめの料理に合わせる時は、米のテイストを力強く感じさせる純米酒がベストです。料理のパワフルな味わいにも当たり負けしません。
重厚な香りを特徴とする長期熟成酒はウナギのかば焼きや豚の角煮など、甘くて濃い料理にぴったりです。
地酒をより楽しむコツ
地酒の魅力が分かってくると、もっとディープな楽しみ方をしたくなりますよね。
ここでは地酒の世界にどっぷり浸かれる方法を紹介します。2つの方法を知るだけで、自他ともに認める地酒通になれますよ。
酒造に足を運ぶ
愛飲する地酒についてもっと知りたい方は、酒蔵を訪れてみてはいかがでしょうか。
多くの酒蔵では、繁忙期を除いて見学者を受け入れています。ぜひ現地に足を運び、酒造りの工程を学び、作り手のこだわりに触れてください。いつも飲んでいる地酒への愛情がさらに深まるはずです。
また、見学後に絞ったばかりの原酒を試し飲みさせてくれる酒蔵も存在します。さらには同じ銘柄のスペック別の飲み比べや、生原酒、無濾過生原酒、秋あがりの限定販売などが行われている場合もあります。いつも飲んでいる地酒の、新たな一面に触れられるチャンスです。
さらに、エリアによっては地酒フェアなどのイベントが行われています。新たな地酒との出会いが待っているかもしれません。
同じ土地の食材と一緒に地酒を味わう
地酒は地域の水や天候などに大きく影響されます。また、多くの酒蔵は地元食材との組み合わせを念頭に置きながら地酒を造ります。そのため、ほとんどの地酒は地元の特産物や郷土料理との相性が良好です。
例えば、北海道の地酒は北海道の海の幸と合うと評価されています。四国の地酒と瀬戸内の海産物の組み合わせも人気を集めています。長野の地酒は野沢菜との相性に優れているなど、地域ごとのオリジナリティは実に多彩です。
近年は流通網の整備に伴い、多くの食材やお酒を新鮮な状態のまま自宅で楽しめるようになりました。日本全土から気になる地酒と料理を自宅に取り寄せ、個性豊かな味わいに舌鼓を打ってみてはいかがでしょうか。
さまざまな地酒を楽しもう
この記事では地酒とは何かを解説し、地域別の特徴、美味しい飲み方などを紹介しました。
日本酒は日本が誇る伝統文化です。そして、その文化が日本各地に根付き、独自の発展を遂げた結果、様々な地酒が生まれたのです。
遠い昔から、日本の各地で個性豊かな地酒が造られてきました。そして、地酒の多種多様な飲み方や楽しみ方もまた、一緒に培われてきたのです。
日本の風土と先人の努力が築きあげた地酒文化を一緒に楽しんでみませんか。