接待やイベントなどに参加する機会が多い方のなかには、肝臓を休める「休肝日」を設けている方もいるのではないでしょうか。
肝臓は、不調でも症状が現れにくいことから「沈黙の臓器」とも呼ばれています。そんな肝臓を守るためには、特に症状がなくても飲まない日を設けることが大切です。
しかし、その一方で「休肝日なんて意味がない」という意見をネットなどで見かけることもあります。
休肝日をつくることは、本当に「意味がない」のでしょうか?
この記事では、休肝日を設ける意味や、休肝日による効果を得やすくするコツなどをご紹介します。
休肝日は作る意味がない?
「休肝日」とは飲酒しない日のことです。肝臓を休めるためにお酒を飲まない日を設けることを推奨するために作られた造語です。
アルコールには依存性があるため、飲み続けることでアルコールの量が増え、アルコール依存症や肝臓ガン、肝硬変になるリスクが高まります。
そのような事態に陥らないためにも休肝日を設けることが大切です。休肝日を作れば必然的に飲酒量が減るため、アルコールによる弊害から体を守れるでしょう。
週に3日以上の休肝日があれば、それ以外の日に相当量を飲んでもガンなどによる死亡リスクは増加しにくいという厚生労働省の調査結果もあります。
ただし、たとえ休肝日を設けても、その反動でそれ以外の日にたくさん飲みすぎてしまうのでは、意味がありません。
そのため、1週間で飲むお酒の量をしっかりと管理することが大切です。
参考ページ: 国立研究開発法人 国立がん研究センター「飲酒パターンと総死亡との関連について | 現在までの成果 | 多目的コホート研究」
休肝日が「意味がない」原因になりがちな行動とは?
休肝日には「意味がない」わけではなく、休肝日をつくることは健康管理のためにも大切なことです。
しかし、休肝日をつくっても、お酒を飲む量の管理が適切にできない場合は、意味がなくなることもあります。
ここでは、せっかく休肝日をつくっても「意味がない」状態になるケースをいくつか紹介します。
休肝日以外にたくさん飲む
たとえ休肝日を設けていても、1度に飲むアルコールの量が多ければアルコール依存症や肝臓がん、肝硬変になるリスクが高くなります。
一般的に、10gのアルコールを分解するためには、平均5時間程度かかるといわれています。10gのアルコールとは、ビール500ml、日本酒1合分に相当する量です。少量でもアルコールを摂取すれば、いかに体へ負担がかかるかわかるでしょう。
先ほども紹介した厚生労働省の調査結果によると、1週間あたり450g以上のアルコールを摂取する方の死亡率は、休肝日の有無にかかわらず高い傾向にあるとされています。450g以上のアルコールとは、1日あたり3合以上を毎日飲んだ場合の量に相当します。
この結果から「ただ休肝日を設ければよい」というわけではなく、1週間でのトータルのアルコール摂取量も把握しておく必要があるのです。
休肝日が少ない
たとえ休肝日を設けても、少なすぎては意味がありません。月に1~2回程度では、その効果はあまり期待できないでしょう。
デンマークのコペンハーゲン大学の研究によると、アルコールをほぼ毎日飲む人は、週に2〜4回しか飲まない人に比べ、アルコール性肝臓病の発症率が3.7倍にも上昇するとされています。
また、1週間あたりのアルコール摂取量が450g以上の人は、週1〜2日しか飲酒しない人と比べて死亡率が1.8倍になるという国内の研究結果もあります。
そのため、休肝日をできるだけ多く、定期的に設けてアルコール摂取量を減らすことが重要です。
特に週に450g以上のアルコールを摂取している方は、これまでよりも多くの休肝日を設けるようにしましょう。
肝臓とお酒の関係
肝臓には下記のような働きがあります。
- アルコールを分解し、中性脂肪などのエネルギー源に換えて各細胞に送る
- 不要なアルコールを炭酸ガスや水分に分解して体外に排出する
口から摂取したアルコールは胃で20%、小腸で80%が吸収された後、肝臓で処理されます。
肝臓では、アルコールがADH(アルコール脱水素酵素)やMEOS(ミクロゾーム・エタノール酸化系)に分解され、さらに、アセトアルデヒドへと変化します。アセトアルデヒドは、悪酔いや頭痛、動機の原因となる成分です。
さらに、このアセトアルデヒドがALDH(アルデヒド脱水素酵素)によって、酢酸へと分解されます。
これらが血液の流れに乗って全身をめぐり、最後は水と二酸化炭素に分解されて汗や尿、呼吸によって体外に排出されるのです。
どれくらいのアルコールであれば肝臓が正常に機能するかという範囲は、男女で異なり、具体的な目安は下記のとおりとなります。
- 男性:1日40g(日本酒で換算すると約2合)
- 女性:1日20g(日本酒で換算すると約1合)
ただし、この数字はあくまで目安であり、実際には個人差があります。自分の体の様子を見ながら、飲みすぎないように気を付けるのがよいでしょう。
休肝日をつくらない場合のリスクとは?
お酒は適量の摂取であれば、血管を広げて血液の流れを良くしたり、善玉コレステロールを増やしたりするため、「百薬の長」ともいわれています。
しかし、飲む量が増えてしまうと、下記のような生活習慣病の原因になることもあります。
- アルコール性肝炎
- 肝硬変
- 肝臓ガン
さらに、中性脂肪の増加や高血圧、糖尿病、膵炎(すいえん)、狭心症や心筋梗塞などの心疾患、脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患などのリスクもあります。
このようにアルコールは過剰に摂取すると「万病のもと」となってしまいます。
1日に適量とされるアルコールの摂取量の目安は下記のとおりです。ぜひ参考にしてください。
- ビール:中びん1本(500ml)
- 日本酒:1合(180ml)
- 焼酎:0.5合(90ml)
- ウイスキー:ダブル1杯(60ml)
- ワイン:2杯(240ml)
休肝日を設けるメリット
休肝日には意味がないわけではなく、さまざまなメリットがあります。
ここでは、休肝日を設ける具体的なメリットをいくつか紹介していきます。
アルコール依存症の予防
アルコールには高い依存性があり、毎日摂取を続けるうちに徐々に飲酒量が増加します。その結果、アルコール依存症になってしまうリスクも潜んでいます。
毎日アルコールを摂取すれば肝臓を酷使してしまうため、肝機能の低下や肝障害にもつながります。
日常的に飲酒する習慣をつけないためにも、週に3日は飲まない日を作ることを意識しましょう。
病気のリスクを減らせる
アルコールを飲みすぎると「脂肪肝」になるケースが多いです。脂肪肝の原因がお酒なのであれば、この段階でお酒の量を減らすなど対策をすることで肝臓を回復させることは可能です。
しかし、脂肪肝になっていてもそのまま同じようにアルコールを飲み続けていると、そのうちに「アルコール性肝炎」という状態になり、のちに「肝硬変」になってしまうリスクがあります。ここまできてしまうと簡単に治療ができず、死亡するリスクも高まります。
アルコールの飲み過ぎで発症する可能性がある病気を下記にまとめました。
病名 | 病気の概要 | 症状 |
---|---|---|
脂肪肝 | 中性脂肪が肝臓に蓄積される病気。 | ・疲れやすい ・肩が凝る ・頭がぼんやりする、など |
アルコール性肝炎 | 大量飲酒後に発症することがある。肝臓が腫れる。 | ・食欲不振 ・だるさ ・発熱 ・右上腹部の痛み ・黄疸、など |
アルコール性肝線維症 | 慢性的な飲酒によってコラーゲン産生が起こり、肝細胞が変性・壊死を起こす。 | ・肝機能障害 ・腹痛 ・黄疸 ・発熱 ・白血球増加、など |
肝硬変 | 炎症修復時にできるタンパク質が増加し、肝臓が硬くなった状態。 | ・黄疸 ・こむら返り ・腹水、など |
肝臓ガン | 肝臓の細胞がガン化する。 | ・腹部のしこりや圧迫感、痛み、など |
休肝日を作ることで肝臓の機能回復も可能となるため、上記のような病気のリスクを減らせるでしょう。
また、休肝日を作るだけでなく、1週間に飲むアルコールの量も調整することが大切です。
ダイエットにつながることも
肝臓は基礎代謝量の20%程度を占めているため、肝機能を高めることで体全体の代謝アップにつながります。
しかし、アルコールを摂取すると、肝臓は代謝向上よりもアルコールの分解を優先します。そのため、代謝が落ち、太りやすくなってしまうのです
そこで休肝日を設けることで肝機能が維持されるうえに、基礎代謝が上がりダイエット効果が期待できます。
ただし、お酒をやめて食べる量が増えた場合は逆に太ってしまう可能性もあるため、食事の量には気を付けましょう。
睡眠の質が上がる
お酒が好きな方のなかには、「お酒を飲んだ方が寝つきが良い」という方も多いかもしれません。
2004年に報告された調査結果によると、日本人で「寝つきが悪い」という方のうち、寝酒をする方は、全体の3割程度だそうです。
しかし、実際には、寝酒は睡眠の質を低下させます。就寝前にアルコールを摂取すれば、下記のような症状を起こす可能性が高いからです。
- アルコールの利尿作用によってトイレが近くなる
- 気道がふさがれて一時的に呼吸ができなくなる
- アルコールの脱水作用によって喉が渇きやすくなる
- アルコールの入眠作用が切れた後はアセトアルデヒドによって覚醒してしまい、眠りが妨げられる
お酒で「早く眠りにつける」と感じてしまいがちですが、アルコールを飲まない方が、睡眠の質を向上させることができます。
休肝日を成功させる5つのコツ
お酒を飲みながら肝機能を維持するためには、休肝日を設けるのが有効です。しかし「続ける自信がない‥‥」という方も多いのではないでしょうか?
ここでは、休肝日を成功しやすくするコツを5つご紹介します。
周りの人に宣言する
自分一人で休肝日を決めたとしても、「今日くらいはいいか」とついつい甘えてしまう方も多いものです。
そのため、休肝日を設けるなら、一人で決意するよりも会社の同僚や家族など、周囲に宣言した方がよいでしょう。周囲のサポートによって、禁酒が成功しやすくなります。
しかし、たとえ休肝日を決めていても、社会人であれば接待や付き合いのために飲まざるをえない日もあるものです。
そのような場合には、休肝日を翌日や別日にしたり、摂取するアルコールの量を抑えたりするなど、柔軟に対応するとよいでしょう。
記録を付ける
休肝日を定着させるためには、摂取したアルコールの量をノートやメモ、アプリなどに記録するのがおすすめです。
飲酒量を記録すれば、自分が飲んだ量を目で確認でき、肝臓を休ませようという気持ちにもなります。
また、決めていた日に禁酒ができれば、「自分にもできるんだ」というモチベーションの向上にもつながるため、以降も禁酒を続けやすくなるでしょう。
最近では禁酒や休肝日を応援するさまざまなアプリも配信されているため、自分が使いやすいアプリを選んでぜひ記録してみましょう。
運動を取り入れる
アルコールを飲むことでストレス発散をしている方も多いですが、日々のストレスをお酒で解消するのではなく、運動によって解消するのもおすすめの方法です。
自分の好きなスポーツをはじめてみる、ウォーキングをしてみるなど、自分がはじめやすい運動を試してみましょう。適度な運動をすることで、ダイエット効果や、筋力アップなどにもつながります。
飲酒によってストレスを発散している自覚のある方は、ウォーキングなど軽い運動から挑戦してみてはいかがでしょうか。
お酒以外の趣味を見つける
「飲酒や飲み歩きが趣味」という方もいますが、既に紹介したとおり、お酒の過剰摂取には生活習慣病などのリスクがあります。
そのため、お酒以外に自分が没頭できる趣味を見つけてみましょう。
趣味が見つかれば、意識がお酒から逸れるため、飲酒しなくても充実した生活を送れるようになるでしょう。
友人と一緒に休肝日にする
禁酒したり休肝日を設けたりしても、自分一人ではついつい誘惑に負けてしまうものです。できれば普段飲みに行く友人たちといっしょに休肝日を実践すると継続しやすいでしょう。
「禁酒を守れなかったらペナルティとして〇〇を行う」といったルールを取り入れてみるのもおすすめです。
友人たちと競い合うこともでき、休肝日を守るモチベーションにもつながるでしょう。
休肝日を取りながらお酒を楽しもう
今回は休肝日を設けることの意味について解説しました。
休肝日を設ければアルコールの摂取総量を減らすことができ、病気になるリスクを低減できます。
しかし、それ以外の日に摂取するアルコールの量が多かったり、休肝日が少なかったりすればあまり意味がありません。少なくとも休肝日は週3日以上、週のアルコール摂取総量の合計は450g未満を守りましょう。
アルコールを適度に楽しんで、健康に過ごせる体を維持しましょう。